~退職のご挨拶で失敗した経験から学ぶ、油性ペンの文字の消す方法~
日々、平穏に生活しているつもりでも、
ときどき「なんでそうなった?」と自分を問い詰めたくなるような失敗、ありませんか?
たとえば――
「冷蔵庫のコーヒーを飲んだら、めんつゆだった」
「歯磨き粉だと思って歯ブラシにつけたら、洗顔フォームだった」
誰しも一度はやらかしたことがある、“うっかりミス選手権・予選通過レベル”のアレです。
私にも、あります。いくつも。
最近のハイライトはこれです。
ワイヤレスイヤホンを、ノールックで充電ケースに戻そうとして、ワセリンにぶっ挿していた。
ええ。状況はこうでした。
①イヤホンで音楽を聴いていたら、ちょうど母から話しかけられる
②会話に気を取られながら、手元を見ずにイヤホンをケースへ戻そうとする
③イヤホン越しに手に伝わった、グニュッとした感触
……あれ?
視線を落とすと、そこにはなぜか蓋の開いたワセリンの容器。
そして無惨に突き刺さった、私のイヤホン。
絶望。
悲壮感。
そして、母の爆笑。
この瞬間、すべてがワセリンに包まれたのです(物理的にも、精神的にも)。
これを読んでくれているあなたも、
きっと似たような経験があるのではないでしょうか。
人は誰しも、ミスをします。
集中力を欠いたとき、その確率は飛躍的に跳ね上がる。
そして、今回の本題です。
イヤホンでは済まなかった、あの失敗。
__退職のご挨拶です。
私は退職の当日、職場のお菓子コーナーにおいてある小さなホワイトボードに、
感謝の気持ちを綴っていたのです。
「今まで、本当にありがとうございました!皆さんで召し上がってください。」と。
心を込めて、丁寧に。
静かなオフィスに、私のペンが走る。
お世話になったお礼にと、クッキーの箱をそっと添えて
すべては、完璧なはずでした。
メッセージを書き終え、満足気にキャップをはめた瞬間、
目に飛び込んできた、黒い文字を見るまでは。
――“マッキー(油性)”
その瞬間、すべてが終わりました。
固まる私。
必死にこすっても、にじみもしないインク。
完全なる定着。
はい、終了。
私が去る職場に残したかったのは、ささやかな感謝の気持ちであって
物理的に消えないメッセージではありません。
このままでは、次にホワイトボードに書きたい人に迷惑をかけてしまう___
……というのは建前で。
私が、本当に恐れているのは、
「あいつ、油性ペンで書いていきやがった」
こう、後日社内で話題になること。
それだけは、全力で阻止したい。
誰にも気づかれず、マッキーの文字を跡形もなく消し去り、
ホワイトボードマーカーでさらりと書き直して去る。
残されたのは最後の壁。
消せなければ、すべては終わる。
___ミッション、開始です。

マッキーを消す方法なんて、すぐスマホで調べればいいんじゃない?
そう思った、そこのあなたに
まずは、現場の状況を整理して説明したいと思います。
▶事件現場の状況
①現場は、ビルの1フロアの壁をぶち抜いたオープンスペース。 柱はあれど、壁はなし。
つまり、全方位から見える。
②現場は個人情報を扱うセキュリティエリア。 スマホなどの私物は持ち込み禁止。
③ホワイトボードは、セキュリティゲートを入ってすぐの通路沿い。 人通りが多すぎる。
④昼休憩が終わった今、座席を離れられるのはトイレ休憩の数分間のみ。
おわかりいただけただろうか___。
人目の多さ。
情報の遮断。
そして、極端に限られたタイムリミット。
え、これ無理ゲーすぎない?
私は絶望のあまり、目の前が真っ暗になりました。
いっそ……ホワイトボードごと撤去するか……?
一瞬、そんな考えがよぎった自分にゾッとしました。
それは、人の道に反します。
精神的に追い込まれると、極端な思想に走ってしまいがちです。
冷静になれ、私。
ならば、素直に白状するか…?
(脳内シミュレーション)
私「すみませ〜ん。ホワイトボードに間違えてマッキーで書き込んじゃいました」
上司「は???」
ダメだ、間抜けすぎる
「マッキーで書くとか、やばwww」
「普通、気づくでしょw」
私が去ったあと、陰でこう言われるのは確実。
いやだ。そんな伝説、残したくない。
どうすればいい。
打ち明けたくない。諦めたくもない。
そんな時、ある名言が脳内をよぎりました。
“You can believe what is needed is only one, to be able to.”
必要なことはただ一つ__「できると信じることだ」。
アンソニー・ロビンズ(米・自己啓発作家)
そうだった…
私は忘れていました。
このミッションは、「できるかどうか」じゃない。
「できると、信じること」なんです。
かつて私は、この職場で様々な修羅場を乗り越えてきました。
・数時間に及んだクレーム対応
・見たことも聞いたこともない、他社製品のお問い合わせ
・まったく話が通じないお客様(推定:日本人)
そのすべてを乗り超えて、
今ここに立っているのです。
今回も、きっとなんとかなる。
そう自分を奮い立たせて、オフィスを見渡しました。
すると、
目に入ったのは、職場のあちこちに配置された__
消毒用アルコールでした。
手の消毒だけじゃなく、食卓やトイレの掃除にも使える便利アイテム。
その時、私は自分の指先のネイルを見て
「除光液にもアルコールあるし、ワンチャンいけるのでは……?」
そう、ひらめいたのです。
さっそく、使い捨てペーパーにアルコールをしみこませ、
祈るように、マッキーの文字を擦りました。
結果:まったく変化なし。
文字は1mmもにじんでいない。
純白のホワイトボード、ぴったりと居座ったマッキー様。
手から、じっとり汗がにじんできます。
もしこれがマッキーの広告なら、
「菌は消せても、マッキーは消えない。――圧倒的耐久性」
とか書いてあっても許すレベルです。
私は、奥の手である
「トイレ休憩」のカードを切って現場を離脱。
セキュリティゲートを駆け抜け、ロッカーへ急行しました。
過去最速のダイヤルさばきでロッカーを開け、
スマホを手に取り、検索。
「ホワイトボード 油性ペン 消す方法」
検索結果:
ホワイトボードマーカーで上塗り
油性ペンの上からホワイトボードマーカーでなぞり、すぐにイレーザーで消す。
マーカーのインクに含まれる剥離剤が油性ペンを浮かせてくれる。
……なん、だと……?
まさかの、上書き消去?
信じがたい。でも、試すしかない。
私は、真実を確かめるべく、急いでホワイトボードの前に戻り、
ホワイトボードマーカーを手に取りました。
この時点で、社内から感じる複数の視線…
なぜ、彼女は座席に戻らず
ホワイトボードに向かっているのだろうと、
不思議に思われていることでしょう。
でも、大丈夫。
この場において、今の状況を最も不思議に思っているのは、この私です。
視線に構わず、ホワイトボードマーカーで
マッキーの文字の上を、恐る恐るなぞりました。
文字が……
より、濃くなっただけ。
(これで消せなかったら、潔く自首しよう___)
そう心に決めて、祈るようにイレーザーで擦ってみました。
すると___
まるで奇跡のように、マッキーの文字がホロホロと消え始めたのです。
スルスル、というわけではない。
でも、確実に。確実に。
擦るたびに、文字が消えていく。
そして、すべての文字が消え去った瞬間――
私は、ホワイトボードの白さに感動しました。
無事、ホワイトボードにメッセージを書き直すことができた私は、
何事もなかったかのように、その場を立ち去ることができたのです。
最後まであきらめずに、踏みとどまって本当に良かった。
これを読んでくれた、
うっかりマッキーでホワイトボードに書いてしまったあなたにも。
そうでないあなたにも。
この言葉を、そっと贈ります。
“You can do it.”
困難な状況になっても、大丈夫。
あなたにも、きっとできます。
チャンスを掴むのは、いつだって__
あきらめなかった人です。
アルコールでホワイトボードを拭くという行為ですが、アルコールの 濃度が高すぎたり、頻繁に使いすぎると、表面のコーティングを傷める恐れがあります。ご注意ください。
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